安藤広大氏の著書『リーダーの仮面』を読み、その「数学的」とも言える徹底したロジックに衝撃を受けました。「感情を横に置き、役割として振る舞う」。理屈では100%正しいと分かっていても、いざ40代の会社員として現場に立つと、そこには理論通りにいかない「泥臭い現実」が待っていました。
今回は、私がこの本の実践を通して突き当たった壁と、それを乗り越えるために行き着いた「A5サイズのメモ」による微調整の過程を共有します。
1. 「自分でやった方が早い」という最大の誘惑
正直に言って、部下に任せるよりも自分でやった方が圧倒的に早い。指示を出しても「わかったのか、わかっていないのか」が伝わってこない。その不透明さに耐えられず、つい自分で手を動かしてしまう。
「自分の首を絞めているのは、自分自身の短気さだ」——この構造に気づいたところから、私の実践は始まりました。
しかし、「待つ」ことには、根性や精神論以上に、もっと具体的な解決策が必要でした。
2. 問いかけの抽象度を「3つ」に絞り込む
「教えた通りにやっておいて」という指示では、部下は動けません。かといって手取り足取り教えるのは、仮面を脱ぐことになってしまう。
そこで私は、問いかけの抽象度を少し上げ、以下の3つの理由のどれで止まっているのかを確認することにしました。
物理的な時間不足か?
わからないことがあって止まっているのか?
社外・他部署の「返事待ち」か?
例えば、進捗確認の際にこう聞きます。
「〇〇の件、どう?」
「あ、すみません、まだです…」
「ん? 何か引っかかってる? それとも単純に手が回ってないだけ?」
「いや、分からないとかじゃなくて、ちょっと時間が…」
「了解。じゃあ進んだら教えて」
進捗を聞き、もし「つまづいている」以外の理由(単に時間がかかる、など)であれば、そこから先は「待つ」と決めました。
3. 「待つ」ために必要だったのは、根性ではなく「メモ」だった
実践して分かったのは、「待つ」ことは予想以上に苦痛であること、そして「待っていること自体を、自分も忘れてしまう」という致命的な欠陥です。
自分が忘れてしまったタスクは、当然ながら放置され、結果として組織全体のスピードを落とします。
最初はスマホのメモアプリに書き出していました。しかし、スマホにメモしても、そのメモを見ることすら忘れるという状態に陥りました。通知が来るたびにスマホを開き、気づけば別のアプリを見ている。メモアプリを開くという行動そのものが、日常の中に埋もれてしまったのです。
次に試したのは、表紙の厚い手帳でした。しかしこれも失敗しました。手帳は気づくと引き出しの中、カバンの中、家に置き忘れ——「探す」という行動が発生した瞬間、それは使われなくなる道具になってしまったのです。
これを防ぐために私が最終的に行き着いた解決策は、驚くほどシンプルなものでした。
A5サイズのペラペラのメモ帳を、机の上に常に置いておく。持ち歩かない。
部下に任せたタスクをすべて書き出し、できたものから横線を引いて消す。ただそれだけです。
ペラペラだからこそ邪魔にならず、机に置きっぱなしにできる。手帳のように「どこにしまったっけ?」と探す必要がない。いつもそこにある——この「探さなくていい」という状態が、私が仮面を被り続けるための最低限のインフラになりました。
4. 「返事待ち」という言い訳をあえて深追いしない
部下に状況を聞くと、圧倒的に多い答えが「相手の返事待ちです」というものです。これは部下にとっても、最も真っ当に聞こえる「動けない理由」でしょう。
かつての私なら「いつ返事が来るのか確認したのか?」と詰め寄っていたかもしれません。しかし今は、あえて深追いはしません。「一回どうなったか聞いてみて」とだけ伝える。
なぜなら、返事待ちを責めても、部下は次から報告しなくなるだけだからです。
「言い訳を潰すこと」と「心理的安全性を守ること」は紙一重です。多くを求めすぎず、一言声をかけることで相手の記憶を呼び起こせればそれでよしとする。この「適度な突き放し」が、今の私にとっての無理のない「仮面の被り方」です。
5. 小さいけれど、確かな変化が生まれた
この方法を始めてから、劇的な変化があったわけではありません。
しかし、部下から「あと〇〇が揃えば完成します」という報告が来るようになりました。
以前は「まだできてないです」で終わっていた報告が、今では「何が残っているか」を自分で整理して伝えてくれる。この変化は、地味ですが確実に前進している証拠だと感じています。
そして何より、変わったのは私自身です。
「自分が忘れないように」と頻繁にメモを取るようになり、感情でイライラする代わりに、チェックリストの線を消すことに集中するようになりました。自分の残業時間も、週に3時間ほど減りました。
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『リーダーの仮面』を完璧に着こなすのは難しいかもしれません。しかし、40代会社員として、現実との折り合いをつけながら「微調整」を繰り返す。その試行錯誤の過程にこそ、マネジメントの真実があるのではないかと感じています。
もしあなたも「待てない自分」に悩んでいるなら、まずはペラペラのA5メモを1冊、机の上に置いてみてください。持ち歩かず、いつもそこに置いておく。それが、仮面を被り続けるための最初の一歩になるかもしれません。


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